民事信託について

民事信託という言葉を最近よく聞かれるようになりました。しかし、まだまだ認知度は低く、制度がよく分からない方も多く見受けられます。ここではかんたんに分かりやすく民事信託の制度をご説明いたします。
民事信託とは、平成19年9月に施行された制度でまだ新しい法律でもあります。
もともとは、旧信託法が大正11年に施行され、平成19年まで、約84年間まったく改正されることがありませんでした。また、主に信託銀行などの信託業者しか信託の制度を使うことができませんでした。これを「商事信託」といいます。
しかし、平成19年に規制緩和の一環で信託法も改正され、一般の人でも信託の制度を利用できるようになりました。これを「民事信託」といいます。
この「民事信託」は、信託銀行などが業務として営む「商事信託」とは異なります。
現代の多様化する家族関係に配慮し、遺産承継や財産管理の方式を自由に設定することが可能となりました。
個別設計ができるというだけでも非常に注目を浴びている制度でもあります。

次は、信託の基本的な構造についてご説明いたします。

信託の仕組み

信託は下図のように「委託者」「受託者」「受益者」と、「信託財産(図の中では不動産)」から構成されます。

委託者・・・信託する財産の所有者(オーナー)で、かんたんに言いますと信託を依頼する人です。
受託者・・・委託者から信託を任された人です。
受益者・・・受託者が管理・運営によって得た利益をもらえる人です。

もう少し詳しくご説明いたします。

委託者とは

自身の財産について管理・運用・処分に関する方針を遺言や契約などで信託として設定し、受託者に自身の財産を託す人のことです。ただし、信託をするためには、意思能力がなければなりません。したがって認知症の方や意思能力に問題がある方は信託という法律行為を進めることは出来ません。
委託者は個人でも法人でもなることができます。また、複数名で委託者になる事も可能です。
例えば、不動産の管理において、共有名義で持ち分がバラバラになった不動産を円滑に管理したい場合には、複数名で委託者となり信託契約を設定することで、将来の不動産の管理が複雑にならずにすみます。
さらに、一度信託契約を締結しても、委託者は受益者との合意により信託をいつでも終了することができ、受託者を解任することも出来ます。また、委託者に対し、信託事務の処理の状況等に関する報告を求め、信託の管理において損失が出た場合に補てんを請求することもできます。
また、信託の委託者が、亡くなってしまったとしても、委託者の死後に継続して信託を設定できる点が、「委任契約」や「成年後見制度」との大きく違うところです。委託者の死後に安定した財産管理や遺産承継ができるところも民事信託の特徴です。ただし、信託契約の設定で信託契約の終了条件を「委託者の死亡」と定めていた場合はその信託契約は委託者が亡くなったときに終了となります。
委託者が亡くなった後に信託がどのようになるかというと、信託契約で委託者の死後その権利について明記されていない場合は、委託者の地位は相続の対象になります。この場合、委託者の地位は相続人が引き継ぐことになります。(相続によって効力が発生する遺言による信託の場合は特段の事由がない限り相続人にその地位は承継しません)
※遺言による信託とは・・・委託者が信託の内容を決めた遺言を作成し、その後委託者が死亡して遺言の効力が生じたときに信託の効力も生じる信託のことです。例えば、私が死んだらこの財産は、息子を受託者として、孫を受益者として信託するなどの内容を遺言にするということです。

受託者とは

受託者は委託者から信託財産の所有権移転を受け、信託契約に基づいて、委託者から信託財産の管理を任された者になります。長期に渡って財産の管理ができる者となります。
受託者は原則、誰でもなることが出来ます。しかし、前提として、委託者から大切な財産を管理・処分・承継することを託されるので、委託者との関係において信頼のある方が就任することが一般的です。また、未成年者などの法律判断を正しく行えない方は受託者にはなれませんし、成年被後見人など、正しい判断能力を有していない方も受託者になれません。受託者には、個人でも法人でも就任することができますが、長期に渡って契約が持続していきますので、信託財産をきちんと管理できることが必須の検討要素となります。
もし、受託者が信託の途中で亡くなった場合、信託契約で予備的な受託者(二次受託者)の指定がある場合は、その指定された者が信託任務の引き継ぎを行います。予備的な受託者(二次受託者)の指定がない場合は、原則として委託者と受益者との合意があれば新しい受託者を選任することができます。
また、すでに委託者がいない場合は、受益者が単独で受託者を選任することができます。
死亡以外で受託者の理由で信託が終了してしまうケースもあります。
例えば、受託者が成年後見人(正しい判断能力を有していない状況に)なった場合や破産した場合など、また、特段の事由によって受託者から辞任の申し出があり、委託者と受託者がこれを受理した場合などがあります。
受託者の責任は重い立場にありますので、止むを得ない事情があり裁判所が許可した場合や、受託者の辞任できる要件が信託にて定められていた場合に限り受託者は辞任することができます。
それを踏まえたうえで、受託者として誰を指名するのか、また死亡した場合などに備えて予備的な受託者(二次受託者)を指定しておくなど慎重な設計をしていくことが望ましいでしょう。

次に受託者の責任はどんなものがあるのかも確認してみましょう。

①善管注意義務

受託者は、善良なる管理者としての注意義務をもって信託事務を処理しなければなりません。
通常期待されるような当たり前のことはちゃんと注意を払ってやってくださいということです。

②分別管理義務

受託者は、信託財産を受託者の固有財産及び他の信託財産とは分別して管理しなければなりません。
信託財産の所有権が移転することになるので自分のものと勘違いしがちですが、あくまで信託として移転しているだけですので、ちゃんと分別はしてくださいねということです。また、分別管理の方法については、信託契約で別段の定めを設けることができます。ただし、信託の登記・登録をする義務を免除する定めはできませんので注意してください。

③忠実義務

忠実義務は、受託者は、受益者のため忠実に信託事務の処理その他の行為をしなければなりません。
決して自分の利益だけに働かず、受益者の利益をしっかりと守ることです。また、受益者と受託者との間において、利益が相反・競合する場合も、忠実義務の問題となりますので注意が必要です。

④公平義務

受託者は、受益者が複数人以上ある場合は、受益者らのために公平にその職務を行わなければなりません。
えこひいきして受益者間で不公平にならないようにしてください。

⑤自己執行義務

受託者は、委託者からん信頼に基づき、信託財産を託されているため、みだりに他人に代行させず、受託者自らが信託事務を遂行しなければなりません。例外的に第三者へ委託を許容する旨の定めがあるとき、または、やむを得ない事由があるときは、第三者に委託が認められています。

⑥帳簿等の作成等、報告・保存の義務等

受託者は、信託帳簿を作成しなければなりません。
毎年1回、一定の時期に貸借対照表、損益計算書などの書類を作成して、その内容について受益者(信託管理人が在る場合には信託管理人)に対して報告しなければなりません。ただし、受益者に信託帳簿等の閲覧謄写権が認められていることから、この報告義務は任意規定となっています。
信託帳簿の保存期間は原則、作成日から10年間です。また、財産状況開示資料の保存期間は原則として信託の清算結了の日までの間です。
委託者・受益者は、信託事務の処理の状況等について受託者に報告を求めることができます。また、受益者は信託帳簿の閲覧謄写を受託者に請求することができ、利害関係人は財産状況開示資料の閲覧謄写を受託者に請求することができます。

⑦損失てん補責任

受託者に対して課されている義務・責任の一つで、受託者がその任務を怠ったことによって、信託財産に損失が生じた場合または変更が生じた場合には、受益者の請求により、受託者は損失のてん補または原状の回復の責任を負うというものです。
受託者の権利としては信託財産の管理における報酬を請求する権利や管理するうえで必要な経費を委託者に請求する権利があります。

受益者とは

信託を通じて得た利益を受け取る人のことです。

受益者は、将来生まれる子孫にすることや、複数にすることも可能です。ただし、受益者が正しく利益を受け取るには、きちんと受託者が信託に基づいて、その義務を果たしているか、または監督ができていないと、受益者としての地位も権利も危ういものになってしまう恐れがあります。受益者が未成年や高齢の場合などは、受益者代理人を定めるなどして、信託が適切に運用されるように第三者の目が必要となるでしょう。
受益者の設定においては、様々な注意事項がありますので確認しましょう。
受託者と受益者が一致してしまった場合には信託は1年で終了してしまい信託が継続できなくなります。
信託契約を結んだ時に、予め第2受益者として二人を指定しておくとか、受託者が単独で受益権を承継した場合は受益権の一部を他の人に譲渡するなど検討をしておくとよいでしょう。
もしくは、受益者と受託者が一致した場合は、1年は猶予があるのでその間に受託者を他の人に変えるなどの対応も考えられます。
予め第2受益者以降の指定として「受益者連続型信託」というのがあります。
受益者が死亡した場合に信託の内容において受益権を引き継ぐことができます。例えば、「受益者Aが死亡した場合はB」「受益者Bが死亡した場合には、Cへ」「受益者Cが死亡した場合には、Dへ」という具合です。
こうした指定がなされていない場合、受益者が死亡した際は、受益権も相続の対象となりますので、法定相続人に承継されることになります。
※通常、相続における不動産の所有権移転においては、不動産の固定資産評価額の0.4%が登録免許税(2,000万円の不動産なら8万円)となっております。一方、信託による受益権の移転においては、1件あたり1,000円と非常に安い金額となります。

贈与税の対象になるのは

税金の問題は信託において注意が必要となる問題です。
委託者 A→ 受託者 B→ 受益者 A
この場合、Aは自分の財産からの利益を自分で受け取るため、非課税となります。
この委託者と受益者が同じ状態を自益信託と言います。

委託者 A→ 受託者 B→ 受益者 C
この場合、CはAの財産から利益を享受している事になり、贈与の関係となります。
そのため、1年間に信託により得た利益が他の贈与により与えられた財産の価格と合計して、基礎控除額の年間110万円を超えると、贈与税の対象になります。
上記のように、委託者と受益者が異なった人の場合を他益信託と言います。
贈与税の対象となるのはこの他益信託の場合に問題となりますので専門家に相談されるとよいでしょう。

信託財産とは

委託者が所有している金銭や不動産などのプラスの財産が対象です。プラスの財産であれば、信託することができる財産の種類には制限はありません。

信託財産にできるものは?

プラスの財産であればほとんど何でも信託することが可能です。例えば下記のような財産があります。

・ 現金
・ 動産(自動車・宝飾品)
・ 不動産(土地・建物)
・ 株式(上場・非上場)
・ 国債などの有価証券
・ 特許権、著作権などの知的財産権
・ 債権
・ 借地権

※ペットも信託が可能です。(法律上は物としての扱いとなります)

信託することができない財産としては以下のようなものがあります。
・ 預金債権
  銀行などの預金債権は「譲渡禁止特約付債権」であるため、信託財産にすることはできません。
・ マイナスの財産
  債務や負債などの財産は信託することはできません。
・ 一身専属権
  生活保護受給権や年金受給権は信託することができません。
・ 換金できない価値のもの
  身体や健康、経験・体験、評価などは直接的に換金することができないので信託することができません。
※債務は、信託できない財産ではありますが、債権者の同意を得ることにより、債務引受することが可能です。
実質、債務を信託することと同じ状態にすることができます。

信託財産は誰のものになるのか

委託者が託した財産は、信託が設定されると誰のモノでもなく「信託財産」にまります。
例えば、信託した不動産では、信託が設定されると受託者の管理下に移りますので、不動産登記上では受託者の名義となり所有権が移転します。しかし、これはあくまで完全なる所有権が移転する訳ではありません。信託として所有権が移転するということです。このあたりも受託者の財産ではなく、これは「信託財産」ですよと分かるようになっています。最終的には、信託によって定められた権利帰属者のもとに所有権は移転されることになります。

預金の信託は要注意!
預貯金は、預貯金債権であり、銀行に対して「預けたお金の払い出しを受ける権利」を持っているということになります。この預貯金は、預けた人以外の誰かに譲渡することはできない契約になっています。(譲渡禁止特約付債権)
そのため、銀行の預貯金を誰かに託すことやその債権を受ける権利を移転させていく事はできないということになります。

民事信託は比較的新しい制度で事例が非常に少ないため、実績のある専門家にしっかりと相談していただき、きちんとした設計をしていくことが重要でしょう。

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